オーケストラ! (2009)【監督】ラデュ・ミヘイレアニュ 【出演】アレクセイ・グシュコフ / メラニー・ロラン / ミュウ=ミュウ / フランソワ・ベルレアン / ドミトリー・ナザロフ / ヴァレリー・バリノフ / アンナ・カメンコヴァ / リオネル・アベランスキ / アレクサンダー・コミッサロフ / ラムジー・ベディア |
元団員たちを集めて本物のオーケストラになりすまし、パリで公演する――このプロットだけで普通につくって十分おもしろそう。
しかししかし深い深い。
元指揮者には過去のある事件へのこだわりがあった。
その事件を大雑把な説明からだんだん詳細に説明していくところにこの映画のおもしろさがある。
いちばん最初の説明を元支配人と元団員との殴り合わんばかりの口げんかでやっちゃうところからして新鮮。
やっと集まった団員たちがダメダメなのも、彼らが虐げられてきた民族であることがだんだんとわかり、30年にわたって必死に生きてきたことが背景にあると匂わせる。
個人的には、いかにソ連の共産党がひどい存在であったかという政治的な内容を説得力をもっておりこんでいるのが感慨深い。
そして「ソ連の共産主義」なるものは「共産主義ではない」、と登場人物にいわせているところも興味深い。
ダメダメな団員たちの心の底流に流れているのも、かつて弾圧された仲間への連帯感だ。そこには「万国の労働者…」と並んでレーニンが「被抑圧民族、団結せよ!」と叫んだのがだぶる。
いわば共産主義の原点をも想起させるものとなっており、いまだ誤ったソ連流にしがみつくフランス共産党への嘲笑と対照的だ。
ラストの演奏シーンのなかですべてが明らかになる。
そして観客は…少なくとも私自身は…裏切られる。
なんて彼らは人間性が高いのか、と。
その演奏シーンには音楽という芸術への徹底的なこだわりと仲間への連帯感、それをふみにじった民族抑圧への怒り…といったきわめて高度な人間性を謳歌する感動があふれていた。
蛇足なのだが、この作品、角川シネマ新宿の「ブルーレイ上映」とやらで見た。
くわしいしくみは定かではないが、とにかくシャギーというかドット感が気になるし、色の彩度が高すぎて下品な印象だった。
フィルムは維持がたいへんでコスト削減したいところだろうが、それは同程度の品質が保たれて許されることだ。
音楽という芸術にこだわりぬいた人物たちの映画を、お粗末な代替品で提供するというのはあまりに皮肉、と率直に批判せざるを得ない。
まあ、映画の日価格で見せていただいたので大きな声ではいいづらいのだが。
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