「買い替えるエコ、『エコ替え』」なるCMが気になっていた。
んなわけねぇだろ、と思ってググッてみたところ、Youichi Mizunoさんの「自転車はエコ」(「伊勢本街道を走る」)というページで興味深い計算をしているのを発見。
「エコ替え」は、燃費、すなわち走行距離あたりのガソリン燃焼による温暖化ガス削減をもちあげているけれど、そもそも新しい自動車には製造・流通過程で大量の温暖化ガスが排出されている。
「自転車はエコ」では、いったいどれぐらい走れば、走行時の温暖化ガス削減分で、製造に必要な温暖化ガス排出分の埋め合わせができるのか、という計算をしている。
1,500cc クラスの自動車では実に5万km。
「自転車はエコ」からリンクしている社団法人・日本自動車工業会によると、1台の車の「生涯走行距離」は10万kmとなっているので、半生を生きてやっと前世の罪滅ぼしができるというレベルのようだ。
しかし残念ながら「自転車はエコ」で計算に入っていない部分が大きく、結果としてかなりの過小評価になっていると思われる。
大きいのは部品の原材料についての計算がぬけていること。
鉄鋼にかぎってみてみよう。
経済産業省発表をもとに気候ネットワークが計算した2007年度の事業者の排出量集計結果に対する速報分析によると、2007年度日本の温暖化ガス総排出量に占める鉄鋼業界の割合とその排出量は、12%で1億6536万トン。
(社)日本鉄鋼協会が発表している「鉄鋼需給の動き」の資料によると、2007年鋼材受注における自動車の割合〔自動車÷(内需計+輸出)〕は15.2%。
「自転車はエコ」での計算の元となっている自動車の生産台数1089万台をもとに計算すると、鉄鋼業界が自動車1台分の鉄鋼生産で排出した温暖化ガスは 2,308kg という結果に。
(日本自動車工業会が発表している2007年の四輪車生産台数は1,159万6千台と「自転車はエコ」の資料よりも若干増えている。それでも 2,168kg)
「自転車はエコ」では、部品の製造から自動車の完成までの1台あたり排出分を 1,700kg と算出しているが、鉄鋼部品の製造だけで、その約1.4倍もの温暖化ガスが排出されたのだ。
1,500cc クラスの自動車の場合、鉄鋼部品の製造から自動車の完成までに排出される温暖化ガスの量が、「生涯走行距離」で節約できるガソリン消費分を上回ってしまい、トータル環境にダメージ、となってしまう。
さらに、鉄鋼生産の原料である鉄鉱石の採掘・輸送は計算に入っていない。
プラスチックの化学原料やガラスなどの分も考えなくてはいけない。
そして、相対的には小さいけれど以下のことも考えてほしい。
- (Youichi Mizunoさんも気づいておられる)製造工程内の部品輸送時の排出量
- 買い替えによって不要になった古い車を処分・解体する際の排出量
- エンジンオイル、タイヤ等、ガソリン以外の消耗品製造・流通時の排出量※1
- 「エコカー」売り込みのための宣伝部材などについての排出。
※1 消耗品の多くは消費で温暖化ガスがでるわけではないが製造・流通工程で排出される。燃費とは無関係、無関係だから蛇足という意見もあるかもしれないが、走行距離あたりの温暖化ガス排出量のうちガソリンの燃焼分はあくまで一部分であることを意識してほしい。
もともと燃費が悪い車であれば効果もあるだろうが、ちょっとした減税に「うはっ!!」と思うような庶民の多くはもともと燃費のいいファミリーカーに乗っていると思われる。
結論 : 「エコカー減税」はエコロジーに打撃!!
にもかかわらず、政府が「エコカー減税」をすすめる背景にあるのは、財界団体・経団連の需要創出策。
発想の中心はエコロジー効果ではなく、エコノミー(経済)効果なのだ。
しかも、政府は高速道路の「値下げ」※2も並行し、どんどんガソリンを消費しろといわんばかりの政策をすすめているのだから、エコロジーを語る資格などない。
※2 このいわゆる高速道路の「値下げ」というのは不正確。利用者が直接支払う分は「値下げ」と見えるが、正規料金との差額は大雑把にいえば税金で穴埋めされて道路公団に支払われる。この間問題になってきた「道路特定財源」とは別の新たなルートで税金が道路公団に流れ込むしくみをつくったということだ。
おりしも、友人の寺岡が、車検対応の修理にお金がかかりすぎるので愛着のある車を捨てて新しい車を買うという話題が。
そうよ。
車にもよるけれど、古い車を大事に乗り継ぐ発想の方がホントはエコロジー。
しかし、残念ながらエコロジー=エコノミーとはならないようだ。
「エコカー減税」より「古い車を車検に通す減税・補助金」の方がエコロジー的にはよっぽど正しい政策だと思う。
ほかにも「国内農産物減税」とか、本当のエコロジーがエコノミーになるようにリードするのが政治の役割ではないのか。
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