出版社 : 小学館
著者 : 片山 恭一 / 定価 : 520円(消費税24円ふくむ)
いい大人がこっぱずかしいのだけれど、なかなかよかったので。
ちょうどブームのほとぼりが冷めたころに読んだのだけれど、やはりブームのときに騒がれていた「純愛」のエピソードはこの小説のごく一部分にすぎない。
若いころの、相手の一挙手一投足にストレートに心臓の鼓動が反応したり、血がわきたったり逆流したりの恋心。
そんなにまで愛した人を失ってしまったときの深く苦しい喪失感。
それは、この小説のように死別でなくても…自分としては死別はまだ経験していないが…感情移入できるのではないだろうか。
深い愛と深い喪失感を1つのベクトル上でとらえる試みが新鮮であり、また同時にむなしくもある。
説明できない煩悶を合理化するためのさまざまな自問自答が息苦しく美しい。
登場するおじいさんとの対話を通じて、読者は、生き、愛し、死ぬことをめぐる哲学に引き込まれる。
映像はいらない。
登場人物たちといっしょに人生の大切なことを真剣に考えるところにこの小説の価値がある。
最後に待っている美しい風景に救いとあたたかさを感じられるのがいい。
ちょうどほぼ飛行機の1フライトの間に読んでしまったのだが、冒頭のみずみずしい恋愛を描いているあたりは青空の中を飛び、アキの発病から死までのあたりを夕焼けから黒い空の中、ラストのある種のすがすがしさをかみしめながら東京のキラキラした夜景の中にランディングしていく…じつにぴったりとシンクロしていて感動ひとしおでした。
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